こんにちは、エムスリーキャリア株式会社 CTO 兼 CAIOの寺田です。
先日、エンジニアリンググループ全体に向けて「今後のAI活用方針と方向性」について説明しました。今回はその内容をベースに、エムスリーキャリアのエンジニアリンググループが目指している未来についてお話ししたいと思います。
チャットAIによる「1.1倍の改善」からの脱却
現在、多くの開発現場でチャットベースの生成AIツールが導入されています。弊社でも日々の業務で活用が進む一方で、既存の業務フローの延長線上での活用にとどまっており、「圧倒的な生産性向上」に向けては、まだまだ改善の余地があると感じていました。
細かくAIに指示を出したり、AIとやり取りをしてしまうと、結果的に人間がAIをマイクロマネジメントしてしまっています。これでは既存の業務フローの延長線上にある「1.1倍」の改善にしかなりません。
私たちが目指すべきは、既存のプロセスを白紙に戻し、「AIありき」でプロセスを根本から再定義することによる「10倍」の非連続な進化です。
目指すのはAIエージェントによる「自律的な改善サイクル」
最近のAIによる開発では、人間が何度もフィードバックを回す従来の手法から一歩進み、AIエージェント自身が自律的にタスクを解決していくループエンジニアリング的なアプローチがトレンドになっています。
私たちもAIの最適な活用方針を模索する中で、まさにそのアプローチに行き着きました。すでにこれらと同等の仕組みを自社の開発フローに組み込み、実運用に向けて作り込んでいる最中です。
しかし、私たちが目指しているのは、それを単なる「個人の開発環境のアップデート」や「コーディングの効率化」にとどめることではありません。その概念をさらに拡張し、事業KPIの分析から企画立案、そして検証に至る「事業全体の改善サイクル」にまで広げ、組織の仕組みとして定着させることです。
ゴールは、AIエージェントが自律的に状況を判断し、プロダクトの改善ループ(分析 → 企画立案 → 開発 → 効果検証)を自動で回し続ける環境を構築することです。

この「自律的な改善サイクル」は、大きく分けて以下のステップで回っていく想定で、すでに各フェーズにおいて仕組みの構築と実運用が進んでいます。
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分析
事業KPIを自動で収集・分析し、AIがデータの中からボトルネックや異常値をリアルタイムで抽出します。現在すでに、社内のKPIや営業データをAIに読み込ませ、人間がダッシュボードを見て課題を探すのではなく、AIが自律的に課題を抽出する仕組みが稼働しています。
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企画立案
過去の事例や市場データなど多角的な情報と、抽出された課題を掛け合わせ、AIが最適な改善策(企画)を立案します。
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開発
企画を形にするフェーズにおいて、私たちは「ドラフトファースト」で推進しています。従来のように、人間が数時間かけて調査・設計し実装するのではなく、AIエージェントに数行の指示を投げます。AIが数分から十数分で設計・実装・Pull Request作成までを行い、まずは「60%の完成度のドラフト(初稿)」を作り上げます。人間がやるべきことは、そのドラフトを動かして完成度を確認し、要件をブラッシュアップしていくことです。これを仕組み化し全エンジニアが一定水準以上の成果物を担保できるようにしています。
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効果検証
リリースした機能が事業KPIに与えた影響(A/Bテストの結果など)を自動で集計・評価し、手動でのデータ抽出やレポーティング作業をなくす仕組みにします。
点と点を繋ぎ、シームレスなサイクルへ
現在、これらの仕組みは各フェーズ単体で稼働し、精度を高めているところです。この次は、これらの「点」の仕組みをシームレスに結合させることです。この一連のサイクルが完全に繋がれば、人間の主業務は「作業」から「AIのレビューと最終的な意思決定」へと完全にシフトします。
サイクルを現実のものにするための独自の工夫
この4つのステップからなるサイクルですが、机上の空論ではなく現実の業務で機能させるために、裏側では様々な工夫を仕込んでいます。
例えばその一つが、「組織の暗黙知」の扱いです。社内に蓄積されたドメイン知識や暗黙のコンテキストを、どうAIエージェントに適切に理解させるかなども重要になります。こうした「裏側の仕組み作り」も数多く走っており、それらは今までや1年前のエンジニアの働き方さえも変えていこうとしています。
エンジニアの役割は「開発」から「AIのマネージャー」へ
これまで、エンジニアの役割は4つのステップのうち「開発」フェーズでした。しかし、この自律的な改善サイクルが回り始めると、その常識は大きく変わります。エンジニアは単なる実装作業をAIに任せることで、自ら「分析・企画立案・開発・効果検証」のすべてのプロセスに横断的に入り込み、サイクル全体をドライブしていくことになります。
エンジニアは自らのAIエージェントを「部下」として持ち、タスクを割り振り、レビューする「マネージャー」や「リーダー」としての役割が求められるようになります。また、人間は細かい手順の指定をやめ、「Why / What(目的と枠組み)」の提示と、踏み越えてはいけないガードレールの設計やレビューに徹します。そして、これまで全体のわずかしか割けていなかった、事業成長に直結する「企画」や「意思決定」の時間を増やしていきます。
おわりに
「AIを正しく使えば、開発工数は大幅に削減できる」というのが私の考えです。開発や運用の大部分をAIエージェントによる自律的なサイクルに任せ、人間はビジネスのより深い部分に挑戦していく。そんな全く新しいエンジニア組織を作っています。
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